「関西弁は海外で通じる」説を検証してみた

Night view of Osaka Ebisu bridge異文化コミュニケーション
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英語よりも関西弁?

タイトルを見て「当たり前や、関西弁ナメたらあかんで」と言うあなたは関西人、その他残りの大多数の方は「そんなことあるわけないよね」と思われたことでしょう。普通に考えれば、日本語が話せない相手に日本語の方言である関西弁を使っても、言語的に分かるはずがありません。

しかし、これが単なるバカらしい (アホらしい) 冗談かというとそうでもないのです。

お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さん (兵庫県出身) は、2年ほど前に自身のブログで“関西弁は世界共通語である”と書いた上で、海外で活動したいなら英語よりも関西弁を覚えるべきだとまで言っています。(参照―「世界を回りたいやつは、英語よりも、この言葉を覚えろ」)

英語と関西弁ではどちらが大事かという議論はさておき、多少盛ったにしてもただのボケではないでしょう。ブログの記事を見ても、ちゃんと各国を旅した実体験をベースに書かれています。西野さんに限らず、冗談にしか聞こえない「関西弁が外国で通じる」という現場を実際に目の当たりにした方であれば、常識だけでは説明できない異文化コミュニケーションの奥深さに気づかれたことでしょう。

下に、筆者が個人的に経験した一つの例を挙げたいと思います。

関西弁 in ベトナム

叔母と仕立て屋さん

Street in Hoi Ann
by Đoàn Tiến on Pixabay

大阪人の叔母を連れて、数年前にベトナムにある世界遺産の街に行った時のこと。

ベトナムという国は縫製で有名なところで、その街にもいくつも仕立て屋さんがありました。せっかくなので、以前から知っているテーラーに叔母を連れて行くことに。叔母はベトナム語はもちろん英語も全くダメで、一緒について行って英語の会話を日本語に通訳しながら、何着か注文する運びとなりました。

仕上がり予定日の朝。受け取りにも、出来上がりを確かめるなどある程度時間がかかります。テーラーは宿から歩いて行ける距離で治安も安全なところだったので、叔母には先にお店に行っててもらい、こちらは後からお店で合流することにしました。

他の用事を済ませていざテーラーに顔を出してみると、叔母の姿が見えません。仕立て屋の奥さんの姿もありません。もしかして入れ違いになったのか、それともどこかで迷っているのかなどと色々考えていたところへ、ちょうど外から奥さんがバイクで戻ってきました。そして、叔母もその後ろにちゃっかりヘルメットをかぶって二人乗りでまたがっていたのです。

Motorbikes crossing the bridge in Vietnam
ベトナムのバイク風景 by GAL SHARON on Pixabay

摩訶不思議なコミュニケーション

!? どこ行ってたの??」と訊ねると、叔母は「奥さんおススメのいい生地が、店の在庫は切れたけど近くの工場にまだ残ってるって言うから、一緒に見に行ってきた。いやぁ、バイクにも乗れて、楽しい経験ができた」と満面の笑み。「生地見て「これエエわぁ」って言ったら、それでもう一着ドレスを明日までに作ってくれるんやって!」と大満足な様子です。

仕立て屋の奥さんも「叔母さん、バイク初めてで一回乗ってみたかったんだってね。最初は店で待ってるって言ってたけど、すぐそこだしヘルメットあるから後ろに乗りなって言ったのよ」とニコニコ。「あの生地、似合うと思って勧めたらたらやっぱり気に入ったって。追加のドレス、明日には仕上げるから」とこちらも満足そう。

そっかー、よかったねー」と言って、そこでふと気づいたのです。

この二人、一体どうやって会話してたんだ???

叔母に聞いてみると、本人もよく分からないけどなぜかちゃんと通じたとのこと。お互いの話を聞く限り、確かにほぼ正確にコミュニケーションが取れています。叔母が話せる言語は関西弁オンリーなので、99%関西弁で喋っていたことは間違いありません。仕立て屋の奥さんも日本語は話せないし英語も得意ではないので、少しだけ知っている英語の単語を混ぜながらベトナム語で会話していたようです。

奇跡的に突然外国語を理解できるようになったわけでもなく、お互い分からない別々の言語で話しているのに、なぜこの二人はコミュニケーションがとれたのでしょうか。この謎を解くカギになると考えられるのは、実際に発する言葉以外でのコミュニケーションです。

非言語コミュニケーションについて

Three giraffes
by Christine Sponchia on Pixabay

言語学や行動学などでは、これを「非言語コミュニケーション」と呼んでいます。会話や文字以外の要素によるコミュニケーションのことで、目線や表情、身ぶり、頭や体の動き、声のトーン、相手との距離感やボディータッチはもちろん、自身が意識していない部分まで幅広い要素を含みます。

感情が“見える”関西弁

関西弁というのは、いわゆる標準語と比べて非言語コミュニケーションの要素がより濃く含まれているように思えます。

関西人の方なら分かるはずですが、誰かが失敗をやらかした時によく「あほやなぁ」と言うのも、非言語コミュニケーションがあるからこそ、文字通りの“アホ”ではなく「大丈夫か?あまり気にすんなよ」という意味でちゃんと伝わります。(注:関西人同士での会話に限る。それ以外だとトラブルを招く可能性大) 

同様に「エエな」「エエなぁ」「エエの?」「エエよ」「エエわ」「エエわぁ」などなど、イントネーションとトーンの違いで、「エエ」という語をベースに10を優に超える意味を使い分けられるのも、非言語コミュニケーションの働きが大きく関わっているといってよいでしょう。

以前、日本語は話せないマレーシア人の友人に「関西弁って、聞いてて普通の日本語と何か違うとこある?」と訊いたところ、「東京の人が話す日本語はフラット (平坦) だけど、関西弁は感情が見えるっていう感じかな。値切ってたり、ボケてたり、大体何言ってるのか読める」とのこと。人間はすごいもので、相手が一生懸命伝えようとしている感情や気持ちは、言語や文化が違ってもそれなりに読み取る能力があります。特に声のトーンで多種多様な意味や感情を使い分ける関西弁には、そのツボにうまく入る要素があるのでしょう。

こうした点を踏まえると、外国人相手に関西弁で話した場合、恐らく相手からすれば何を言っているのか言葉は分からないけど、何を言おうとしているのか気持ちは分かるのかもしれません。さらに身ぶり手ぶりや指さし、その場の状況、話の流れなども合わせると分からない部分もある程度推測できるため、結果として全く違う言語間でも簡単なコミュニケーションであれば成立してしまうのではないかと思います。

目を見て話すことの大切さ

Green eyes of a Caucasian woman

相手の目を見て話すというのも、とりわけ異文化コミュニケーションにおいては大切なことです。目から読み取れる情報というのは決してバカにできません。「目は口ほどに物を言う」ということわざもあるように、相手に伝えたい気持ちは目の表情にはっきりと表れます。

日本人は英語圏の人と比べると会話の際のアイコンタクトは少ないですし、特に慣れない外国語を話そうとしたり無意識に照れ隠しが出たりする時は、下を見たり上を見たりと視線を相手から外す傾向があります。

一方、関西人が関西弁で話す時は平均的な日本語の会話よりもアイコンタクトが多い (長い)ように見受けられ、それは外国人が相手でもあまり変わりません。そのことも、コミュニケーションを取る際に役立っているのかもしれません。

関西弁が外国でも“通じる”理由とは

記事の冒頭でも述べたように、言語的には外国で関西弁が通じるはずがありません。しかし、現実に通じてしまうケースもあるというのは、言語ではなくコミュニケーション的に通じる=言葉の壁を超える要素を持っているからだと考えられます。

関西弁を話す際、大まかにいって次のような特徴がよく見られます。

  • 自分から積極的に話しかける
  • 会話のスパイスとして何かしらボケる/ツッコむ
  • 表情や身ぶりの動きが分かりやすい
  • 自分をネタにできる=恥ずかしがらない

では、上に挙げた点を一つずつ考えてみましょう。

自分から積極的に話しかける

特に大阪人は、全く面識のない相手でも「そのカバン、ええ色やなぁ。どこで買うたん?」などと話しかける人も珍しくありません。普段からこんな調子だと、たとえ外国人が相手でも話しかけることにそれほど抵抗を感じないようです。

とにかく、黙っていたら何も起きません。言葉が通じる通じないは別として、自分から積極的に話しかける習慣がついている人はコミュニケーションの基本を身につけていると言えます。

会話における笑いのセンス

「笑い」は言語の壁を超えて伝わりやすいものの一つです。外国語のコミュニケーションにおいてはユーモアのセンスも大事なポイントで、関西弁のテンポの速いやりとりでのボケやツッコみというのは、ジョークを適度に挟みつつ会話をすすめる外国語のスタイルと似ています

また、内容が正確に分からなくても笑いが多少なりとも伝われば、それだけで相手もよりオープンになるためコミュニケーションを取る上で有利に働きます。

分かりやすい表情・身ぶり

吉本新喜劇などは多少誇張して演技しているとはいえ、基本的なノリは一般の関西人も同じようなものです。身ぶりが大げさ、顔芸のように表情が変わるなど、関西人全員がそうではないにしても日本の他の地域と比べると明らかな差があることは否定できないでしょう。当然ながら、見て分かる表現というのは言葉が違う相手にも通じやすいものです。

恥ずかしがらない

恥ずかしがらないというのは異文化コミュニケーションにおいて非常に重要な点です。外国人相手に関西弁で通している人を観察すると、「探してるやつ、こんなお上品で高いのちゃうねん。もっとシンプルで安~いやつないん?」など普段と変わらず感情たっぷりで喋っていて、そこに照れなど微塵もありません。「ここが「シュシュシュー」ってなってるやつ、分かる?」などと擬音を使ったり、それこそ吉本ばりに一人何役もやりながら一生懸命演技で伝えようとしてみたりと、恥ずかしがらずに何とかして相手に伝えようとしているのです。

この点に関しては、地域社会として体裁を気にする環境で育った方にとっては中々抵抗があるかもしれません。優先順位が「面白い>恥ずかしい」である関西人にとって、自分をネタにして笑いを取ることは普段からやっています。そんな背景もあり、外国人相手に何かを伝えるためになりふり構わず色々試してみるのは大したことではなく、もしそれで笑われたところで「海外でウケた=ある意味オイシイ」という感覚の人も少なくないのです。

関西弁の“スピリット”

こうして分析してみると、外国語を話す人と会話する上で必要なポイントの多くを、関西弁の環境で育った人が自然と身に着けている様子が浮かび上がってきます。「外国で関西弁が通じる」というのは、実際には関西弁の“スピリット”で会話することで効果的にコミュニケーションが取れるというのが真相だと思います。

もちろん、ビジネスや勉学などより高度な言語理解が必要なものはまた別の話です。しかし、簡単なコミュニケーション程度であれば、自信がなく気持ちも込められない英語を無理に使うよりは、気持ちや感情がストレートにのる関西弁で一生懸命に話した方が、言語うんぬんではなく相手に伝わりやすいという考え方には一理あるでしょう。

何はともあれ、関西のオバちゃん恐るべし。外国人相手に欲しいモノを伝えようとしている合間にも、「兄ちゃん、ホンマは関西弁できるんちゃうん?あのトランプさんも関西弁やしな。あ、今ワロタで。分かってるやん!」ときっちり場を盛り上げ、買い物が終わる頃にはお店の人とすっかりお友達になって記念撮影。「今度 自分大阪来たら美味しいトコ連れてったげるしな、忘れんと来る前に電話してや!言葉分からんけど (笑)」と言われたお店の人も「OK OK~!」とこれまたちゃんと返事を返します。

やっぱり関西弁は世界共通語なのかもしれません。

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[参考資料]

関西人の「ええ」は翻訳困難!? 話題の一冊『「なんでやねん」を英語で言えますか?』著者に聞いたそのこだわり. At Home. URL: https://www.athome.co.jp/vox/jtown/town/92905/ (参照日:2020年9月17日)

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