「ネイティブっぽい発音」って本当に大事?

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「英語できますか?」

みなさんは、もし外国人から「Do you speak English? (英語できますか?)」と聞かれたらどう答えますか?

大半の日本人は義務教育で何年も英語を勉強していますし、大学入試だってそれなりのレベルの英語の問題を解く必要があります。しかし、英語の授業で悪くない成績だった方でも「英語できますか?(=英語でコミュニケーションとれますか?)」と聞かれると、ほぼ反射的に「ノー」と答えてしまうことが多いのではないでしょうか。(自分で「できる」なんて言うとイヤラシイ、という謙遜が影響しているケースもあるとは思いますが)

一方、世界にはその正反対のケースもあります。英語が第一言語ではない発展途上国の観光地などでは、外国人を見かけるやいなや現地の子どもたちがワラワラと集まってきて、何とかお土産アイテムを売ろうと英語を駆使してあの手この手で交渉してくる姿を目にします。恐らくまともな英語教育など受けたことがないはずですが、生き抜くために実生活の中で商売用の英語を身に着けているわけです。

by Sharon Ang on Pixabay

アメリカ人みたい=英語が上手?

日本の英語教育では、学習者の多くが 「英語ができる=ネイティブ (アメリカ人) みたいに話す」という思考パターンからなかなか抜け出せていません。実際に筆者も、日本の友人から「英語はもうアメリカ人みたいに話せるようになった?」と一度ならず聞かれたことがあります。

もちろんその友人に他意はなかったのですが、こうした質問からは、私たち日本人の思考のどこかに「“アメリカ人っぽい英語”は上手な英語で、そうじゃない英語はいまいち」という潜在意識があることに気づかされます。そもそも、何をもってアメリカ人とするのかも非常にあいまいですが、恐らくCNNなどのニュースやハリウッド映画で耳にするような英語を何となくイメージしているのでしょう。

学校で「水 (water)ワラー」「りんご (apple)ェアーポゥ」のように習った方もいるかもしれませんが、こうしたアとエの中間のような母音を強調したり、Rの発音が“こもって巻く”いわゆるアメリカ英語の発音というのは、日本語を母語とする学習者の多くにとって正直ハードルが高いものです。そのため、「ネイティブっぽい発音なんてできない→英語なんてできない」と委縮してしまう (恥ずかしく感じてしまう) 人が増える原因の一つになっています。

では、ネイティブのような発音でなければ実際に世界で通じないのでしょうか。

Barack Obama -President of United States back then

「共通語」としての英語

2019年時点で世界中で英語を話す人口は約12億7000万人 (ネイティブ:約3億8000万人 + 非ネイティブ:8億9000万人) と推計されていますが、そのうちアメリカ人で英語を母語とするのは約2億4000万人、世界の英語話者の約19%にすぎません。つまり、5人のうち4人はアメリカ英語ではないということです。

ここで注目したいのは、非ネイティブの英語話者 (英語が母語ではない人) が9億人近く (全体の約7割)もいるということです。当然母語ではないので英語のアクセントや発音にも第一言語の影響が出ますが、実はそうした母語の訛りもある「共通語 (リンガ・フランカ)」としての英語こそが現在世界中で使われている英語の主流となっているのです。

マレーシアの例

一例として、マレーシアは英語が公用語の一つとなっていますが、英語で学校教育を受けた人たちとそうでない人たちがいます。前者は英語が第一言語である場合も多く (その気になれば) 高度な英語を使えますが、中国語やマレー語など英語以外の言語で教育を受けた人たちでも、違う言語を母語とする人同士がコミュニケーションを取るための共通語として英語を使っています

一般的に言って、マレーシア人の英語はアメリカ英語の発音とはかなり違います。(そもそも、英国の植民地だったマレーシアはイギリス英語がベース) また、同じ英語を話していても、他民族国家のマレーシアでは人種によって発音やアクセントも異なります。

例えば、典型的な中華系マレーシア人の場合、英語のTHの音はタ行の音に変化して“Thank you.”は「テンキュー」、数字の3は「トゥリー」、考えるという意味の“think”は「ティンク」になります。複数形はほぼ無視、日本の英語の授業で習う「三単現のS」なんてものは完全に無視、過去形なんかも適当な場合がほとんど。一見無茶苦茶なようですが、実はこう見えてもちゃんと押さえているポイントがあります。

それは、まぎらわしい発音は区別しているという点です。

発音を区別することの大切さ

上に挙げたように、THTの発音はほぼ一緒になっているもののコミュニケーションに大きな支障はきたしません。ネイティブの英語話者にもこれで通じます。しかし、SSHSTHZJLRのように混同するとややこしい音の区別はつけているのです。別にネイティブのように発音しているわけではありませんが、それぞれの違いが分かるような仕方で発音しています。

よく「日本人はRの発音が苦手」と言われる点については確かに否定できませんが、コミュニケーションの上で重要なのはRをネイティブっぽく発音することではなく、LR発音の区別をつけることです。

日本の英語学習ではネイティブの発音を真似ようとする努力はよく見られるものの、発音がまぎらわしいものを区別しようという意識はそれほど高くありません。例えば、“sit (座る)”と“shit (くそ)”のように混同するとまずい語に関しては特にはっきりとした使い分けが必要です。しかし、“sit”をカタカナのSHで発音して「シット」と言ってしまう日本人学習者は非常に多い (しかも汚い言葉になっていることに気づいていない) のが現状です。

教える側も学ぶ側も、個々の音をどう発音するかに力を使い果たすのではなく、紛らわしい音の組み合わせをどう使い分けるかに注意を向けることが「使える英語」を身につける上で大切だと意識しておきたいものです。

コミュニケーションのための英語

People from different cultural background posing for photo-shooting
by Gerd Altmann on Pixabay

現在の「共通語」としての英語においては、発音がネイティブ並みかどうかということは重視されません。国際会議での各国代表の発言などを聞いていても分かるように、母語からくる訛りがあったとしても、英語で論理的かつ説得力のあるスピーチができるか、相手が誤解しないようにメッセージを伝えられるかといった、コミュニケーション能力の方がはるかに重要です。もちろん、前の部分で述べたような混同しかねない発音には注意が必要ですが、誤解なく正確にメッセージを伝えられているのであれば、「自分の英語はカタカナ英語だから・・・」とヘンに気後れする必要はないのです。

「マングリッシュ」と「シングリッシュ」

日本人の場合は、英語が相手に通じないとつい「あ、ソーリー、えーっと何だっけ・・・」となぜか申し訳なく感じ焦ってしまう人も多いですが、マレーシア人は仮にネイティブが上手く聞き取れず「???」となっても、逆に「何だよ、分かんないのかよ」といった雰囲気を丸出しにしながらもう一度繰り返すほど強気なのが面白いところです。ちなみに、こうしたマレーシア英語をちまたでは“イングリッシュ”ではなく「マングリッシュ (Malaysia x English)」と呼んでいます。

マレーシアのお隣のシンガポールでは、国民のほとんどが英語教育を受けており流ちょうに英語を話しますが、これまた強烈な発音&アクセントに加えて中国語やマレー語の単語が混ざった独特の英語で、別名「シングリッシュ (Singapore x English)」と言われています。それでも、英語でのコミュニケーション能力は非常に高く、そのことがシンガポールが国際ビジネスの拠点として発展できた要因の一つであることは間違いありません。

ここまでくると、もはや混合言語である“ピジン英語”と言ってもいいのではないかと思いますが、マレーシア人、シンガポール人どちらも、自分の英語の発音がネイティブと比べてどうかなんてほとんど気にもしていません。むしろ、自分たちでシングリッシュをネタにして笑っているほどです。

ネイティブの真似じゃなくていい

しばしばイギリス人が「自分たちは“English (英語)”を話しているが、アメリカ人が使っているのは英語じゃなく“American (アメリカ語)”だ」と揶揄することもあるように、英語ネイティブの間ですら色々な発音やアクセントが存在しています。“bus”を「バス」ではなく「ブス」と言ったり、数字の8を「エイト」ではなく「アイト」と発音する地域もありますが、こうした発音のバリエーションもひっくるめて英語という言語が成り立っています。世界的な大企業を率いるトップにも英語が母語でない人は多くいますが、彼らはこうした共通語としての英語を駆使してコミュニケーションを図っているのです。

ですから、母語以外の言語として英語を学習する際には「アメリカ人みたいな英語」や「ネイティブっぽい発音」にとらわれるのではなく、ぜひコミュニケーションのための英語を意識しましょう。そうすれば、いつか「英語できますか?」と聞かれた時、自信を持って「イエス!」と言えるようになるはずです。

追記 (2020年8月27日):ゴールデングローブ賞やグラミー賞を何度も受賞している米国人女優ベット・ミドラー (Bette Midler) が、中欧スロベニア出身の米大統領夫人メラニア氏のスピーチについて、非ネイティブの訛りを馬鹿にしたツイートをして炎上したことが世界中でニュースになりました。(参考―FOX News:Bette Midler accused of xenophobic tweets mocking Melania Trump: ‘She still can’t speak English’)

もちろん“アメリカ人”と一括りにはできませんが、残念ながら今回報道された件に限らず、ネイティブではない人の英語をどこか下に見ている空気を肌で感じることはしばしばあります。異文化コミュニケーションのためには、自分が話している言語やアクセントが他よりも上だという考えを決して持たないことが不可欠です。こうしたケースを反面教師にして、さらに多くの人が異文化をよりよく理解しようという意識になることを願ってやみません。

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[参考資料]

Ethunologue. URL: https://www.ethnologue.com/guides/ethnologue200 (参照日:2020年8月22日)

United States Census Bureau. URL: https://www.census.gov/data.html (参照日:2020年8月22日)

(May 23, 2018) “Can English remain the ‘world’s favourite’ language?”. BBC News. URL: https://www.bbc.com/news/world-44200901 (参照日:2020年8月22日)

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