数は人間が出現する以前から、いや、この世が出現する前からもう存在していたんだ。
「博士の愛した数式」(小川洋子 著)
これは、主人公の家政婦に、派遣先である元数学教授の“博士”が語った言葉です。
学校で必ず習うとはいえ、ある一定のレベルを超えると私たちのほとんどが理解できなくなる数学。設計や工学などの分野ならともかく、大抵の日常生活ではごく基本的な数式しか使う機会がないのが正直なところです。
しかし、意識的に使っていないからといって私たちの生活が数学と関係ないかというと、そんなことはありません。毎日のくらしを便利にしてくれている科学技術も、私たちの住んでいる地球とそこにある自然界も、また広大な宇宙そのものも、すべては緻密かつ整然と織り上げられた法則=定理の上に存在しているからです。
生活の中にある数学
何気なく聞いている音楽でさえ、実は数学が深く関係しています。例えば、西洋音楽の基本となるドレミの音階はギリシャの数学者ピタゴラスが解明した「ピタゴラス音律」がベース。そこから純正律や平均律などの音律が生まれてきたわけですが、音階 (周波数) と和音の関係などの分析になると完全に数学の世界に突入します。
また、あらゆる分野でセキュリティーが必要な通信に使われている「公開鍵暗号」と呼ばれる暗号システムも、素数が持つ特徴を利用して安全性を確保しています。現在、この暗号方式は電子署名、SSL通信、ブロックチェーンなど様々なところで使われています。ですから、まったく数学に興味がなくても、数学の恩恵を受けているからこそクレジットカードを使い、オンラインショッピングをし、メールを安全にやりとりすることができるのです。
数の神秘=「神の手帳」
科学、特にIT分野における技術の進歩は凄まじいスピードですが、数学の世界では「〇〇予想」といった問題が証明されるのに数百年単位の時間がかかることもある上、解けたのかどうかをそもそも理解できる人が地球上に両手で数えるほどしかいない場合すらあります。
小学生が算数で普通に習う四則演算 (+-×÷) があるかと思えば、かたや人類最高レベルの知識をもってしても未証明の理論があり、さらにいまだ発見すらされていない定理がある―。“博士”が述べているように、数というのはまさに「神の手帳にだけ記されている真理」なのでしょう。
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