「憮然とする」の意味
「結果を聞いて憮然としている」というのは、次のどちらの意味でしょうか?
A. がっかりして、または落胆してぼんやりしている様子
B. 腹を立てて機嫌が悪い様子
正解はAです。
何となくイメージとしてBの意味を想像された方も多いことでしょう。実際、2018年に行われた文化庁の「国語に関する世論調査」でも、6割近い人が「憮然としている」の意味を『腹を立てている』と理解していることが分かっています。
これが「呆然としている」という表現だと大半の人が正しい意味を答えられるはずですが、「憮然」の意味を取り違えてしまう人が多いのはなぜでしょうか。
意味を取り違える原因とは
文化庁の説明では、「ぶ」という音が苦情を言う際に使う「ぶつぶつ言う」などの表現を連想させるのかもしれないとしています。確かに、「ぶ」がつく言葉としてはその他にも「ぶっきらぼう」「ぶあいそう (不愛想)」「ぶしつけ (不躾)」など態度の悪い、または不機嫌な様子を表す語が多いような気もしますし、意味の誤用の背景にそうした影響はあるのかもしれません。
しかし、筆者としては激しく怒る様子を表す「憤然とする」という表現と「憮然」の意味をどこかで混同しているケースもあるはずだと思っています。この2つは音も似ていますし、全体的な漢字のイメージにも共通するものがあるため、意味の取り違えが起きる原因としては十分考えられるのではないかと思います。
若者の方が慣用句を誤用しやすい?
この表現に限らず、慣用句の理解については若い年代ほど意味を間違って覚えているという印象が強いかもしれません。ところが、2007年の調査では「憮然とする」の意味を正しく答えた割合が一番高かった年齢層は16~19歳 (36.3%)で、50代の正答率が最低 (12.7%)だったことが明らかになっています。受験勉強の成果なのか、それとも意味の混同が起きるほど多くの慣用句をまだ知らないからなのか分かりませんが、慣用句に関しては年齢層が高いほど正しく理解しているとは限らないというのは興味深い点です。
本来の用法が戻る傾向も
もう一つ注目できるのが、2007年と2018年の調査結果を比較すると、「憮然とする」の意味を誤解している人は14%減少 (70.8%→56.7%)、一方で正しく答えた人は11%増加 (17.1%→28.1%) していることです。通常、誤用というのは一旦広がり出すとその傾向が定着すると思いがちですが、このように再び本来の用法へと揺り戻しが起こることもあるわけです。
「憮然」という語については、今後数年のうちにより本来の意味が回復されるのか、それとも取り違えた側の意味がまた広がっていくのか、言葉の移り変わりを観察する上で面白い材料になりそうです。
[参考資料]
「憮然ぶぜんとして立ち去った」人は腹を立てている?―文化庁ホームページ. URL: https://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_08/series_08/series_08.html
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